Craig Eye
6月の初めに仕事の関係でフィリピンへ出張に行ってきました。皆さんも御存じのとおり、フィリピンにはセブ島やボラカイ島など世界的にも有名なリゾートがあります。私の知人でもフィリピンへ旅行に行き、大変満足したとの話を聞いたことがあります。では、本当のフィリピンという国はどのような国なのでしょうか。私の出張報告とともにみなさんに紹介したいと思います。
フィリピン(マニラ空港)に到着し、まずは滞在時のスケジュール確認を行うため、お客様の工場に向かいました。工場はマニラ市南部のカブヤオ町の工場地帯にあり、マニラから車で1時間半程度かかるとのこと。ハイウェイを利用して1時間半ということはかなりの距離を移動すると思っていましたが、半分程度の時間は渋滞につかまっていました。マニラから郊外への移動はハイウェイ一本だけです。一般道もあるのですが、道路が整備されておらず、タイヤがパンクする恐れがあるので、基本的には皆がハイウェイを使用するらしく、毎日混雑しているとのことです。また、ハイウェイに限らず市内の道路でも車線を守るという考えがなく、まさに「我が道を行く」でした。交通事故も頻繁に起こるらしく、これも渋滞の原因になっていました。
マニラの郊外に出ると、ある光景が頻繁に目に入るようになりました。それは、「家」とは呼べないプレハブ程度の大きさの家が何件もかたまり、一つの町が出来上がっている光景です。生活のインフラも整っていない場所に、雨も凌げそうもない家が何件も立ち並び人々が生活をしていました。電力は、拾って来た電線を電力が通っている電線に引っ掛けて電気を引っ張っているのだとか。もちろん住所など記されておらず、郵便物は届きません。ましてや、住民登録も行っていないので、何万という人が正式な国民としてカウントされていません。フィリピンの人口は約9000万人(2008年度)ということですが、実際は億をはるかに超えているのではないでしょうか。
また、ハイウェイを走っていると「ジプ二―」という現地の相乗り大型車(10人乗れる程度の大きさ)を頻繁に見かけます。ジプ二―はフィリピンに住んでいる人には欠かせない交通手段の一つで、市内から郊外へ、郊外から市内へと人々を乗せて毎日走っています。ジプ二―は、戦後米軍が残していったジープを修理・改造・デコレーションしているらしく、耐久性や安全性は全く保証されていないとのことです。(外見は非常に派手です)また、中古のディーゼルエンジンを搭載しており、大量の汚染物質を排出するため、大気汚染を加速しています。これは帰ってきて知ったことですが、そんな大気汚染に対して、三菱UFJ証券が金融ノウハウを活用して、CDM*という地域の発展と地球温暖化防止を両立したプログラムを実施しています。世間一般には知られていない活動ですが、金融という本業を活かしたすばらしいCSR活動なので、是非ご覧になってください。(詳細はこちら)
お客様の工場では、主に現地のスタッフにインタビューを行いました。フィリピンの労働社会の特徴は、組合活動が活発で、労働争議が起こりやすいことです。そして、一度争議が起こると会社を潰されることもしばしばで、特に海外企業が進出する際には重要視する必要があるリスクです。お客様でも過去に労働争議が起こっていました。(現在は全く問題ないですが)インタビューを通じ、その原因を聞いてみると、やはり職場環境、特に日本人スタッフとのコミュニケーションに問題があったことが判明しました。現在では、労働争議が再発する恐れは全くないとのことですが、やはりその理由は、円滑な社内コミュニケーションでした。ローカルスタッフの考えや主張、逆に日本人スタッフの考えなどを双方が理解し受け止めあえば、労働争議というものは起こらないのではないでしょうか。
ローカルスタッフにインタビューを行っていると、フィリピン人が非常に真面目であることに気が付きます。皆、与えられた仕事を一生懸命きちんとこなしていますし、会社の利益を考えています。フィリピンでは教育環境が十分整備されていないので、我々日本人はどうしても「フィリピンの人は能力面で劣っている」というステレオタイプ的見方をしてしまいます。これに対して、お客様では何か問題があったとしても「自分で考えさせる」という事を徹底的に行っています。その問題に対して、日本人スタッフは対応策を教えるのではなくアドバイスを与えるのです。そうすることで、現場での応用力や解決力を養ってあげることができます。ローカルスタッフも自分・チームで物事を考えることで「仕事に対してモチベーションが上がり楽しくなった」と言っていました。
また、インタビューを行っていると、スーパーバイザーやリーダークラス(部長や課長レベル)に女性が比較的多いことに気が付きました。フィリピンでは、男性より女性が一家の大黒柱ということが多いらしく、男性は昼間からビールを飲んであまり働かないとか。たしかに、いくつかの小さな村を車で通りましたが、昼間からベンチで寝ている男性(30-40歳ぐらい)がよく目に付きました。
お客様の日本人スタッフは何年もフィリピンに住んでいるので、フィリピンの文化にじかに触れています。ここでは、日本人スタッフから聞いたフィリピンの医療制度と助け合いの文化を紹介したいと思います。
フィリピンでは、日本と同じような医療制度は望めません。きちんとした企業で働いている現地の人は、会社がある程度(3割程度)医療費を負担するような制度がありますが、住民登録を行っていないような人々には適用される医療制度は無いのではないでしょうか。フィリピンの病院では「お金」がすべてのようです。患者の経済状況で受けられる治療が決まってきます。お金を持っている人は満足のいく医療を受けることができるでしょう。しかし、そうでない人は、十分な治療を受けることはできず、仮に入院することができても退院できないということが起こるそうです。なぜなら、退院する際にも「お金」が必要だからです。入院中に病院で亡くなっても、その遺族はお金を払わないと遺体を引き取ることはできません。入院をしたら、同じ部屋にすでに亡くなっている人がいることは当たり前のようです。
多くの貧困層の人々は、重い病気にかかっても病院に行きません。入院して完治したとしてもお金がかかり、仮に治らなかったとしてもお金かかり、親族に迷惑がかかると考えているからです。このような過酷な医療がフィリピンでは普通に実施されています。
フィリピンは貧富の差が非常に激しい国です。この医療制度が物語っているように、大勢の人々はまともな医療を受けることができません。町並みを見ても、ほんとうに暮らしていけるのか、十分な食料は確保できているのかと疑問を抱いてしまう時も多々あります。貧困層の人々は、生活すら困難な場合が多いということですが、そのような環境の中、非常にユニークな助け合いの文化があるようです。富裕層の人々は、自分の周りにいる貧困層の人々にお金を渡すみたいです。いくらかは分かりませんが、何のためらいもなくお金を分けている人もいるとのことです。また、助け合いの文化はお葬式にも見られます。日本人の考え方からすれば信じられないことですが、フィリピン(富裕層ではない人々)のお葬式は、棺の前で賭け事を行い、十分にお金が集まった時点で行うのです。(地域によっては異なると思いますが)何処からともなく親族でもない人が棺の前に来て、賭け事を行うのが当たり前のようです。
近年、フィリピンには、海外のIT企業のコールセンターなどが移管され、マカティのような中心部はどんどん発展しています。マカティの中心部にあるアラヤセンターには、グリーンベルトという大きなショッピングモールや高級ホテル、立派なコンドミニアムが開発され、スターバックスなど日本でもお馴染のお店を見ることができます。マクロ経済の視点からすると、このように町が発展していくと、雇用の創出につながり人々の収入も増えるはずです。しかし、そのような恩恵を受けているのはほんの一部の人々です。フィリピンの実質の失業率は3割-4割という話ですし、またまだ大半の人々は生活インフラさえまともではない場所で生活しています。フィリピンの8割程度のお金はフィリピン人口の1割程度の富裕層で占め、残りの2割程度のお金がその他の人々で占められているそうです。マカティの中心部から車で5分も走らせれば、雨をしのぐ事すらままならない家が立ち並びます。工事現場を見れば、そこで働く人はヘルメットや安全靴を着用せず、Tシャツにサンダルという格好で働いています。このような貧富の差をなくすことは非常に難しいことです。しかし、少しでもその差を無くすために、自分が何をすることができるのか、そんなことを考えながら帰国の途につきました。
* Domestic Clean Development (CDM)とは、先進国が開発途上国において技術や資金などの支援を行い、CO2排出量の削減を実施し、そこで削減できた排出量の一定量が排出権となり、自国の削減に充当および先進国に割り振ることができる仕組み。